ラップ好きに、ラップバトル観戦の魅力を聞いてみた

ラップはここ最近ラップの番組も出来たことで、知名度が高まりつつあります。今回はそんなラップの魅力をラップを見るのが好きな方に伺いました。

motさん

motです。ラップが好きで、YouTubeでラップの動画見たり、観戦にもよく行ってます。

斎藤

YouTubeではどんな動画を見るんですか?

motさん

よく駅の近くとかでラッパーの人たちがフリースタイルでラップしているんですが、聴衆が撮った動画がYouTubeで上がっているんですよ。あとはクラブでトーナメント戦があるときにも動画撮ってアップしている人がいるので、YouTubeでラップバトルを探すと星の数ほど動画が上がっているんですよ。

motさん

クラブでのバトルの他にも、高校生ラップ選手権、U22ラップ選手権、戦国ラップバトル、抜刀バトルとかいろいろなバトルがあって、大きなバトルはDVDとかでも発売されているんですよ。小さいバトルだとYouTubeで動画が上がっているので手軽に見ることができます。

ラップについて

斎藤

ラップに関していろいろと教えてください。「ラップ」は読者の方もイメージできると思うのですが、フリースタイルというのはどのような形のことなのでしょうか?

motさん

フリースタイル自体は型や形式が無いと言う意味ですが、ラップの世界では「即興のラップ」というような意味合いで用いられています。

motさん

フリースタイルサイファーという形式もあるのですが、これはラッパーが5,6人集まり、輪になって歌のない音楽(インスト)を流して、1人8小節ずつ披露していくことを指します。

斎藤

それは仲間内でやってるんですか?

motさん

仲間内の場合もあるんですが、有名なサイファーだと飛び入りの場合もあります。

斎藤

サイファーというのは?

motさん

いつもやっているラッパーの集まりの人たちみたいな意味で使われます。例えば渋谷でよくやっているラッパーの集まりが「渋谷サイファー」みたいな。いつメンみたいなイメージですね。

斎藤

サイファーは部外者お断りって感じなんですか?

motさん

入れるときもあるし、入れないときもありますね。ちなみに日本中にサイファーがあるんですが、有名なのは梅田(大阪)ですね。梅田出身のサイファーがいろいろな大会で優勝しているので、梅田サイファー出身のラッパーと言うと一目おかれます。

ハマった経緯

斎藤

motさんがラップを見始める前の、ラップの印象ってどんな感じだったんですか?

motさん

正直、ダジャレを言っているだけのパリピ文化だと思っていました笑

斎藤

たしかにそんなイメージありますね笑 そこからラップにハマったキッカケは?

motさん

部活の先輩がちょいちょいラップのセリフ(バース)を口ずさんでいて、何を言ってるんだろうって調べてみたら、高校生ラップ選手権にいきつきました。

motさん

YouTubeで動画を見たのですが、ニガリってラッパー出ていて、長野県出身の田舎の男の子で、外見は「デブ」「不細工」みたいな感じなんですけど(笑)、一旦マイクを持つとめちゃくちゃ熱くて、どんどん引き込まれていきました。

ラップの魅力

斎藤

motさんとって、ラップのどのような点が魅力ですか?

motさん

一番の魅力は、ラッパーのかっこよさです。ラッパーってかっこいいって言われるためにやっているところがあるので、かっこいいってなんなんだろうってのを突き詰めている人が多いんですよ。人には人のかっこよさがあって、それを考えるキッカケになるのがおもしろい。

motさん

あとリアルさがあるところ。年齢や歴に関係無く批判をしたりとか、放送禁止用語をバンバン言ったりとか。。そういうリアルなものを見れるのは魅力です。バラエティ番組では大物司会者が言った発言に周りが気を使って笑うみたいなときもあると思うのですが、ラップだったら「いやそれ忖度だから、実際はお前おもしろくないよ」、って言ったりして。そういうところがリアルで見どころがあります。

斎藤

たしかに。テレビに限らずどこの世界にも忖度がありますからね笑

motさん

あと勇気も貰えます。ラッパーは裕福家庭で育ったり、昔からモテてたみたいな人はそんな多くはなくて、逆境を乗り越えて道を切り開いてきた、みたいな人が多いので、ちょっと落ち込んだときなどにラップバトルを聞くと勇気が出ます。

motさん

実はヒップホップの人たちって時結構ダサい人が多かったりするんですよ。変わった帽子被ったり、大声出したり。でもヒップホップの世界ではちょと他とずれている方がかっこいいっていう風潮があるので、そのずれているところを正当化してくれる文化がまた良いですね。

斎藤

ヒップホップって言葉は聞いたことはありますが、どういったものなんですか?

motさん

ヒップホップと言うのは、ラップ、グラフィティ、DJ、ブレイクダンスとかいろいろあるんですが、もともと黒人の人がやっていた文化のことをいうんですよ。文化全体のことを言うのでこれっていう定義はないんですよ。

斎藤

ヒップホップの中にいろんな文化の要素が兼ね揃えられているんですね!音楽、歌、ダンス、絵画みたいな。

motさん

そうなんです。共通してるのが、あまりスキルが要らず、人から教わらなくてもできるって点ですね。ラップは音痴でも出来ますし、グラフィティもスプレーでバーって描くだけなので絵が下手でもできます。DJも他人の曲を使ってトラックをつくるので作曲のセンスがいらない。ブレークダンスも創造性が問われてるので高度な技術がなくてもできる。その背景としては当時弱い立場で教育もあまり受けられなかったアメリカの黒人文化から発生しているからのようです。だからこそ「俺たちでもできるんだ」みたいな風潮があるんですよね。

斎藤

なるほど、だからこその親しみやすさがあるんですね。

motさん

団地出身、工場地帯出身のラッパーは結構多いですよ。陰キャラのラッパーとかもいますね。本当に誰でもできるて感じです。

motさん

ただラップに関してはちょっと特殊で、日本語のラップはちょっとむずかしいんですよ。詳しくはわからないのですが英語だと母音・子音とか、音節とかの特性上ラップもしやすいらしい。でも日本語ラップは難しい反面、韻を踏もうとすると単語単語で一つずつ踏むことになるので、わかりやすいっていうメリットはありますね。

好きなラッパー

斎藤

好きなラッパーはいます?

motさん

一番好きなのはニガリです。先ほどお話しましたが一番最初にラップを知るきっかけになった人物で、冴えない外見とは裏腹にめちゃくちゃ熱いラップをするのが魅力です。

motさん

次に好きなのがNAIKA MCです。彼によって最初は韻を踏めた踏めなかったってところにばかり注目していた僕の考えをがらっと変えさせられました。NAIKAは基本的に韻は踏まないんですよ。

斎藤

韻を踏まないラッパーもいるんですね。

motさん

はい、彼は韻を踏むことは伝える手段であって、目的ではないって主張してます。「そもそも縛られたくない人の集まりなのに、韻に縛られてラップするっておかしくない?」って言い出した人です。だから韻は踏まずに、ただ叫んでるだけです笑 マイクパフォーマンスと言われればそこまでですが、音楽に乗って言いたいことだけをいう、そしてそれがリアルで確信をついているから盛り上がるしかっこいい。僕はニガリで知ってNAIKAでハマりました。

斎藤

韻を踏まなくてもバトルできちんと評価されるものなのですか?

motさん

はい、片方はただ韻を踏んでいるだけ。事前に考えてきたネタを持ってきているだけ。対してもう片方は即興で言いたいことを言っている。どちらがかっこいいかというと後者なんじゃないかっていうことで評価されています。彼が出てきてから、ラッパー界でも「韻を踏むだけでいいのか?」と疑問視して、話の内容が求められる風潮が生まれつつありますね。

motさん

もう一人、R指定というラッパーも好きです。彼は中高時代に人気者のサッカー部が憎たらしくて、ずっと心の中で彼らの悪口を言っていたらディスる力がついて、その力をラップバトルで活かしているらしいです笑

motさん

R指定の魅力はヒップホップ会・ラッパー会ってのができて、仲いいラッパー同士で戦う事が多いんですが、R指定は所属していなかったので、相手に対して容赦のないディスをぶつけ合っているので彼のバトルには見どころが多い。それでいてUMBっていうラップの日本一を決める大会で3連覇してる実力がある。ほんとあそこまで悪口を言えるラッパーは殆どいませんね笑

ラップの優劣

(c) SKY Perfect JSAT Corporation.

斎藤

ラップの優劣ってのはどこで決まるものなんですか?

motさん

実は観客の声で優劣を決めるんですよ。普通のラップの大会では、1対1で一人8小節×3本で対決します。その後司会者が観客に問いかけて、Aがかっこよかったやつ「わー」、Bがかっこよかったやつ「わあああ!!」みたいな感じでより声量の多いほうが勝者になります。もし歓声が同じくらいだったら引き分けで延長になります。司会者のさじ加減で決まっちゃうときもあるのですが笑

斎藤

割と適当なんですね笑

motさん

はい、そうなんですがUMBでは公平性を上げるために、観客の中から10人ランダムに陪審員を選んで、観客評価と陪審員評価で決まります。見ているとわりと公平に評価されている印象があります。今後特定のラッパーのファンが増えてきたら、偏りが生まれる可能性もあるので採点の仕組みも変わっていくかもしれません。

斎藤

評価するにあたって基準かなにかはあるんですか?それとも雰囲気だけで決める?

motさん

評価基準もあります。ライム、フロー、パンチライン、アンサーの4つですね。ライムは韻を踏む上手さ。フローはリズム感や間のとり方です。バックで流れている音楽(ビート)と調和しているかが問われます。例えばゆっくりなビートで早口だったらちょっと違うなとなります。パンチラインは言葉遣いですね。いかにみんながしびれるようなセリフを言えるか。アンサーが相手のセリフに関してきちんと返しているかです。ここで即興性が問われます。準備してきたセリフでは相手にきちんと言い返せないので。

感動した瞬間

斎藤

ラップを聞いていて感動した瞬間ってありますか?

motさん

あります!やっぱりラップのセリフに感動させられます。フリースタイルダンジョンという番組がありまして、6人のモンスターのうちの4人を勝ち抜いて、ラスボスのすごいラッパーと戦う番組なのですが、その時のNAIKA MCに感動させられました。

motさん

特に感動したのが、「お前みたいなのに仲間はいねえぞ」とディスられたのですが、それに対してNAIKAが「俺は味方なんていらない。HIPHOPが味方だよ。」って言ったときに感動しました。ラッパーが「俺は俺」というところを貫いているところを見ると、勇気が貰えます。

motさん

NAIKAは特に自分が自分であるということを大事にしています。ゲームとしてのラップバトルの面白さだけでなく、即興のHIPHOPの中で出てくる言葉の中にラッパーのリアルな感情を見れるのもラップバトルのおもしろさですね。

ラップ好きの性

斎藤

motさんが、ラップが好きすぎで困ったこととかありますか?

motさん

社会不適合者と化しそうなことですね笑 ラップって俺は俺、自分が自分であることを誇るという精神があるので、あまり社会との適合性は無いんですよ。ただ社会や組織では自分の意見ばかり主張していては、うまく回らないということは知っているので、僕はぐっとこらえられてはいるのですが、そういう精神を知っているがゆえのストレスは溜まりますね。これはラップをやっている人の中では割とあるあるらしいです笑

斎藤

逆にラップが好きで得したことってありますか?

motさん

メンタルが鍛えられたと思います。成果が上がらないとか人間関係とかで悩んでいる人がいると思うのですが、こういった悩みの多くは突き詰めると人からどう思われるか気にしてしまっていることが原因だと思うんですよ。でもラップが好きな自分としては、人の目を気にせず自分が自分である人を誇っている人たちを見ているわけなので、「自分も自分らしく生きればいいや」と人の目を気にするような悩みはなくなりましたね。

ラップの変わった楽しみ方

斎藤

ラップの独自の楽しみ方ってありますか?

motさん

僕はラップの歴史の変遷をみるのが好きです。例えば1999年に全国の大会が始まったのですが、ラップバトルが始まってすぐのときには、参加者もよくわからない状態で参加していて正直全体のレベルもかなり低い笑

motさん

初回大会から、KREVAというラッパーが3連覇して、当時は韻を踏む(ライム)だけだったのですが、その後「フロー」をうまく使ってかっこよくリズムに乗せる人たちが現れ、その後はパンチライン(披露するだけでなく対話する)ことを求めたり、その人の中身を求めたり。その審査基準の変化の歴史を見るのは好きです。

初心者がラップ(鑑賞)を始めるために

(c) SKY Perfect JSAT Corporation.

斎藤

初心者がラップ鑑賞を始めるとしたらどこから入ると良いと思います?

motさん

有名なラップバトルを見るのが一番だと思います。高校生ラップ選手権は入り口として一番適していると思います。ラップに興味をある人増やそうとしている番組なので、選手の経歴や経験などを流した後にバトルするので、どういう人が勝負しているか分かって初心者でも感情移入して見やすいと思います。

斎藤

高校生の大会があるんですね。勝手なイメージですがヤンキーとか不良少年とかが出てるんですか?笑

motさん

いやヤンキーもいるんですが(笑)、片親とかハンディキャップ抱えた人とか、一見普通の真面目な高校生とかが出場してます。そんな彼らがラップするとめちゃくちゃかっこいい。

motさん

あと審査員もそれぞれの選手を評価してくれるので、ラップので重視されるのがどこなのかが理解できると思います。高校生は若さゆえの無鉄砲さとか熱さとかが感じられて見どころが多いですよ。

斎藤

面白そうですね。野球の甲子園とか見ていてもプロにはない必死さや無鉄砲さがありますしね。

斎藤

ラップはどういう人に向いていると思いますか?

motさん

自分に自信がない人だと思います。むしろすでに自分に自信がある人は見なくていいと思います。自分が自分であることを誇れるからです。

斎藤

確かに。本格的にラップをやりたい人への注意点はありますか?

motさん

クラブは怖いですよとお伝えしたいです笑 喧嘩していたりとか、タバコじゃなさそうな物を吸っている人がいたりとか。。あまり健全ではないですね。

motさんにとってのラップとは?

斎藤

最後にmotさんにとってのラップとは?

motさん

自分をポジティブさせてくれる文化。自分が自分であることを誇ることを肯定してくれる文化なので、それをラップバトルという場で表現してくれている人を見ることで勇気が湧いてきます。

(取材日:2018年11月6日)